水彩画で辿る小石川後楽園「延段」の入り口──石畳が語る江戸と現代のはざま
はじめに
水彩で描く「延段」の入口、その第一歩
水彩画第111作目のテーマは、小石川後楽園に静かに存在する「延段(のべだん)」
その入口から唐門に至るまでの導入部を描いた小石川後楽園シリーズの4作目作品です。
前作・第110作目では、大泉水に浮かぶ蓬莱島と高層ビル群を背景に、江戸と令和が交錯する風景を描きました。今回の作品はその地続きとして、庭園内部に足を踏み入れた来訪者が最初に出会う「石畳の道」に焦点を当てています。
私が描いたのは、延段のはじまり、看板が掲げられた入口付近。そこに記された文言には「中国風の素朴な石だたみで、切石と玉石を巧みに組み合わせたもの」とありました。まさにそれを体現するように、入口から先に伸びる延段の小道は、静かに、そして確かに、見る者の心を奥深い世界へ誘います。
「延段(のべだん)」とは何か|小石川後楽園の代表的意匠
小石川後楽園の「延段」は、その名のとおり「延びる段差=石畳」を意味しますが、単なる通路ではありません。延段は、庭園内の構成を引き締め、風景の奥行きと時間の流れを感じさせる重要な造形要素です。
石の構成と意匠性
切石と玉石を組み合わせた中国風の意匠
表面は素朴ながらも、高度な配置技術による機能美
段差のない平坦な箇所でも「延段」と呼ぶ設計概念
「木曽路」と呼ばれる区画
延段が敷かれているのは、小石川後楽園の東側。唐門跡から大泉水まで続く一帯は「木曽路」とも呼ばれ、中国の山道を模した設計がなされています。
この石畳の道は、ただ通るための道ではなく、「庭園を歩くという体験自体を芸術化」するための装置でもあるのです。
現地での観察|延段入口の空気感を水彩で捉える(F10)
2024年11月初旬の午前中。空気は澄み渡り、まだ残る秋の陽が石畳に斜めから差し込み、影と光のグラデーションを際立たせていました。
入口の石標と案内板の背後に続く延段は、大小さまざまな石が組み合わさり、まるで古の詩がそこに刻まれているかのようでした。都市の喧騒が背後にありながらも、この小道には時間がゆっくりと流れているように感じられました。
構図と色彩の工夫|水彩画としてのアプローチ
アングルの選択
入口の看板を左下に配し、そこから視線を奥へと誘導する構図としました。延段の奥行きを活かすために、石の連なりを緩やかなS字で描き(特に次回作)、庭園の「進行感」を演出しています。
色彩と質感のこだわり|最小限の色で深みを描く石畳
色彩の選定
今回の作品で使用した色は、グレーを基調に、わずかな青味、黒、白の4色のみ。華やかな色彩はあえて用いず、光と影、質感の差だけで石畳を描くことで、「控えめな美しさ」と「静かな重厚感」を引き出すことを目指しました。
色の少なさがもたらす緊張感と静けさ
石の一つひとつにわずかな明暗の違いをもたせ、連続する石の形がリズムを生み出すよう工夫しました。限られた色の中で生まれる緊張感が、風景全体に静謐な空気を与えています。
また、白・黒・グレーの濃淡にごくわずかな青味を差すことで、冷たさではなく、静かに流れる時間の感覚を演出しています。
水彩ならではの透明感を活かした塗り
グレーは単なる混色ではなく、水を多く含ませたレイヤーを重ねて描くことで、空気を含んだような柔らかい質感を表現しました。
石の輪郭はあえて曖昧にし、紙の地肌を活かすことで、年月に磨かれた石のかすれや凹凸感が浮かび上がるように描いています。
背景の植栽と陰影の表現
延段の背後にある植栽には、黄緑にレモンイエローを重ねて塗り、季節の微妙な移ろいを繊細に表現しています。
また、陽射しによる陰影にはブルーグレーを重ね、柔らかで自然なコントラストを生み出しました。
限られた色数の中で、どれだけ奥行きと表情を描けるか。
今回は“引き算の美”に挑戦した一枚となりました。色彩に頼らず、あえて余白や静けさを残すことで、見る人自身の「感じる力」に委ねるような作品を目指しました。
歴史的背景と文化的価値|延段がもたらす精神性
この延段の原型は、小石川後楽園が造営された江戸初期にまで遡ります。徳川光圀の代には、「中国趣味」の影響が庭園設計に色濃く反映され、延段もその一つでした。
かつては巨石・奇石を大胆に配したダイナミックな構成だったとも言われています。しかし、時代とともにその造形も変化。とくに桂昌院の来園時には、歩きやすさを優先して石組が改められた記録も残っています。
今の延段は、その美しさと機能性の融合として、誰もが安全に、かつ心豊かに歩ける空間として整備されています。
第110作目との連動性|「都市と自然」の連続的テーマ
前回の水彩画(第110作目)では、都市の高層建築と大名庭園の象徴「蓬莱島」の共存を描きました。今回の作品は、その風景の入口ともいえる「延段」の始まりを主題とし、「都市と自然の出会い」をより身近なスケールで描いています。
背景にわずかにのぞくビル群が、都市の存在を感じさせながらも、この庭園における「静けさの強さ」を引き立ててくれます。
来園者の声|延段で感じる癒しと発見
実際に園内で聞かれた来訪者の声からも、延段の持つ魅力が伝わってきます。
「この石畳、ただの道じゃないですね。歩くだけで心が落ち着きます」
「延段っていう名前も知らなかったけど、庭園の奥行きがすごく感じられる道ですね」
「最初は気づかなかったけど、よく見ると一つひとつ違う石の形が面白い!」
こうした声が、庭園の中で石畳が果たしている役割の大きさを物語っています。
次回予告|延段から見える唐門へ──112作目のテーマ
本作では、延段の「入口」を描きました。次回、第112作目では、この延段を登りきった地点、すなわち唐門が見えてくる「延段の第二場面」を主題とする予定です。
石の組み合わせがより変化に富み、唐門の存在感が景観に現れはじめるその場面は、より立体的な構図が求められる挑戦でもあります。ぜひ引き続きご覧ください。
まとめ|延段の入口に込めた静謐と時の重み
今回描いた延段の入口は、華やかさこそないものの、確かな魅力と歴史を内包する場所です。
水彩画を通して見えてくるのは、そこに込められた「人の手による調和」と、「自然と向き合う静かな時間」。それは現代の都市に生きる私たちに、ふと立ち止まる価値を教えてくれるものです。
この作品を通じて、皆様にも一瞬でも「静けさの中にある美しさ」に気づいていただけたなら、これほど嬉しいことはありません。
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