ジャズの黄金期に輝くリー・モーガンの『キャンディ』―唯一のワンホーン作品の魅力を探る

ジャズの時代背景

1950年代後半、ジャズは新たな進化を遂げていました。ビバップの複雑さとスピード感から派生し、より感情的でブルースやゴスペルの要素を取り入れた「ハードバップ」が主流となっていたのです。この時代、アーティストたちは個々の表現力を追求し、聴衆との深い共感を生み出す音楽を創り上げていました。

特に1950年代後半から1960年代初頭にかけて、ジャズはアメリカの社会情勢や文化的変遷とも密接に関わり、音楽を通じて自己表現や社会的メッセージを伝える手段としての役割も果たしていました。このような背景の中で、若きトランペッター、リー・モーガンはその才能を開花させ、多くの名作を世に送り出しました。

アーティスト紹介: リー・モーガン

リー・モーガン（Lee Morgan）は、1938年7月10日、ペンシルベニア州フィラデルフィアに生まれました。10代の頃からトランペットの才能を発揮し、18歳でディジー・ガレスピーのビッグバンドに参加するなど、早熟の天才として知られていました。

その後、アート・ブレイキー＆ザ・ジャズ・メッセンジャーズに加入し、数々の名演を残しています。

モーガンの演奏スタイルは、力強さと繊細さを兼ね備え、特にハードバップの分野でその才能を遺憾なく発揮しました。彼の代表作である『ザ・サイドワインダー』は、ジャズ史に残る名盤として広く認知されています。

しかし、1972年2月19日、ニューヨークのジャズクラブ「スラッグス」での演奏中に、当時のパートナーによって射殺されるという悲劇的な最期を迎えました。享年33歳という若さでの死は、ジャズ界に大きな衝撃を与えました。

アルバム『キャンディ』の魅力

録音セッションと共演者

『キャンディ』は、1957年11月18日と1958年2月2日にニュージャージーで録音されました。このアルバムは、モーガンにとって唯一のワンホーン・カルテット作品であり、彼のトランペットが中心に据えられています。

共演者には、ピアノのソニー・クラーク、ベースのダグ・ワトキンス、ドラムのアート・テイラーという豪華な顔ぶれが揃っています。

ソニー・クラークの洗練されたピアノ、ダグ・ワトキンスの安定感あるベース、そしてアート・テイラーの躍動的なドラムが、モーガンのトランペットを引き立て、アルバム全体に豊かなハーモニーとリズムをもたらしています。

トラックリストと各曲の解説

キャンディ (Candy)
アルバムのタイトル曲であり、スタンダード・ナンバーとしても知られています。モーガンの柔らかく甘美なトランペットの音色が印象的で、聴く者の心を捉えます。ソニー・クラークの軽快なピアノも、この曲の魅力を一層引き立てています。

シンス・アイ・フェル・フォー・ユー (Since I Fell for You)
バディ・ジョンソン作曲のバラードで、モーガンの感情豊かな演奏が光ります。彼のトランペットは、まるで人の声のように語りかけ、深い情感を表現しています。

C.T.A.
ジミー・ヒース作曲のアップテンポな楽曲で、アルバムの中でもひときわエネルギッシュな一曲です。モーガンの技術的な卓越性と、リズムセクションとの緊密なインタープレイが堪能できます。

オール・ザ・ウェイ (All the Way)
サミー・カーンとジミー・ヴァン・ヒューゼンによるスタンダード・ナンバー。モーガンの繊細な表現力が際立ち、ソニー・クラークのピアノソロも秀逸です。

フー・ドゥ・ユー・ラヴ・アイ・ホープ (Who Do You Love, I Hope)
アーヴィング・バーリン作曲の楽曲で、軽快なリズムとモーガンの明るいトーンが特徴的です。バンド全体の一体感が感じられる一曲で、演奏の自由さが楽曲全体を彩っています。共演者との息の合ったパフォーマンスが、楽曲をさらに魅力的に仕上げています。

パーソナリティ (Personality)
スタンダードナンバーをモーガンらしい解釈で軽快にアレンジした楽曲です。モーガンの持つ演奏の明るさと個性が全開となっており、聴き手を笑顔にするようなエネルギーに満ちています。

オール・アット・ワンス・ユー・ラヴ・ハー (All at Once You Love Her)（ボーナストラック）
美しいメロディが心に響くバラード。モーガンのエモーショナルな演奏が感動を誘い、アルバムの締めくくりとして完璧な一曲です。

『キャンディ』が癒しを与える理由

『キャンディ』は、リラックスした時間を楽しみたいときに最適なアルバムです。その理由の一つは、モーガンのトランペットが持つ「声のような」温かみのある音色。とりわけ「キャンディ」や「シンス・アイ・フェル・フォー・ユー」などの楽曲では、彼の演奏が心を包み込むような安心感を与えます。

また、このアルバムは全体を通じて落ち着いた雰囲気がありつつも、ダイナミックな瞬間やリズムの高揚感も含まれているため、飽きることがありません。共演者たちとのアンサンブルも見事で、音楽そのものが持つ「癒しの力」を存分に発揮しています。

音楽のジャンルや時代背景を問わず、心に響くメロディとリズムを持つ『キャンディ』は、ジャズ初心者にも愛好家にもおすすめの一枚です。

結び

『キャンディ』は、1950年代のジャズ黄金期に生まれた名盤の一つであり、若き天才リー・モーガンの才能が凝縮された作品です。その甘美なメロディとエネルギッシュな演奏は、日々の喧騒から解放され、癒しの時間を楽しみたい方にぴったりです。

モーガンのトランペットが奏でる音色に耳を傾けることで、ジャズが持つ奥深い魅力を再発見できるでしょう。このアルバムを通じて、1950年代のニュージャージーに響いた音楽の一端に触れ、心の平穏とリフレッシュを手に入れてみてはいかがでしょうか。

下記URLはYouTubeにCandy / Lee Morganが上がっていましたので貼らせて頂きました。
https://www.youtube.com/watch?v=lLUQpKqlk4U

これから、徐々にステレオ録音（1958年前後～）、ハードバップ時代のアルバムのご紹介になってきますのでお楽しみに・・・