見えないから想像できる ― 清川健司写真展「シルエットで紹介する沖縄」徹底レポート
“観光ではない沖縄”を撮り続けるアマチュア写真家・清川健司
福岡・天神、アクロス福岡の2階メッセージホワイエにて、2025年11月24日から30日まで開催中の写真展「シルエットで紹介する貴方の知らなかった沖縄」。その作品群の前に立った瞬間、私の頭に浮かんだのは「沖縄」という言葉そのものが、思い込みに満ちていたという事実でした。
青い空、エメラルドの海、観光客で賑わう那覇中心部、リゾートホテルーー。
そのどれもが確かに沖縄ですが、同時に“沖縄のほんの一部”に過ぎません。
清川健司さんは、観光では決して見えない「生活の光景」を通い続けて撮っています。定年退職後に沖縄へ通い始め、現在では「月に一度のペース」で撮影に入り、沖縄では1ルームのアパートに住まわれているとのこと。撮るために“住む”。その行動こそが作品の背景に流れる静かな熱量となっています。


逆光で描く“シルエットの物語”
清川氏の作品は、一見すると人物の表情がわかりません。なぜなら、すべて逆光で捉えられているからです。
「見せない」ことで、観る側に想像させる
単に影になっているのではなく、夕暮れの海辺、漁港で働く人、城跡(グスク)に佇むシルエット。それらが、余計な“説明”を捨てたことで、むしろ鑑賞者の心に物語を想像させます。
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この漁師はどんな暮らしをしているのだろう?
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この学校帰りの子どもたちは、何を見ているのだろう?
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このグスクに立つ人は、どんな歴史を感じているのだろう?
まるで、写真の向こう側の世界に招かれるように、観る私たちは“想像の旅”を始めてしまうのです。






圧巻!20作品全てに詳細データ+地図+解説
今回の取材のハイライトは、展示作品の横に置かれた 20枚の個別資料。
その情報量は、プロ顔負けの執念と言っても過言ではありません。
📌付属資料の内容
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| タイトル | 写真ごとの画題 |
| 撮影場所 | 沖縄本島+離島を地図に番号表示 |
| 撮影日時 | 日付・時間・天候 |
| 機材 | カメラ・レンズ |
| 設定 | 焦点距離・シャッター速度・絞り値・ISO |
| コメント | 2000文字超の撮影意図・背景・場所の説明 |
特に驚いたのは、ロケ地地図に撮影番号が付けられていること。作品から地図へ、地図から生活風景へと視線が移るたびに、写真のリアリティと奥行きが増していきます。
“この写真を撮るために、この場所に行き、この時を待った”
その行動と思考の軌跡が、資料に全て詰まっていました。


写真初心者にも最高の教材
写真展で資料がこれほど整っていることは稀です。
清川氏はプロではなく、元・建設会社勤務のアマチュア。しかし、その知識整理と記録能力は、むしろプロにも学ぶ点があります。とくに、
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焦点距離による画角の違い
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露光時間と“残像”表現
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構図の“引き算”思想
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逆光下の露出決定
などは、写真を「感覚で撮ってきた人」にとって目から鱗でしょう。
”技術の先にある情緒”が写真になる
その哲学が、資料に明確に言語化されています。


福岡–沖縄を“学びの移動”にしている
取材の時間は長くありませんでしたが、会場で伺えた話が印象的でした。
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沖縄へは月に一度通う
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住まいも小さく確保している
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福岡–沖縄は早割で往復1万数千円
旅行ではなく「通う」。
作品が“観光写真ではない理由”は、まさにここにあります。
清川氏は 撮りに行くのではなく、“沖縄で暮らす人の横に立ち、同じ時間を過ごす”ように撮っている のです。
観光客には見えない日常。
観光パンフレットにはない光景。
写真技術ではなく「生活として撮る姿勢」が、作品の根底を形づくっています。
次回個展テーマのアンケート

展示会場では次回の個展テーマを選ぶアンケートが行われていました。来場者は A〜Fの6つから“見たい沖縄”を選び、シールを貼ります。
| テーマ | 内容 |
|---|---|
| A | 人物のシルエットで紹介する沖縄 |
| B | 情景的航空写真で紹介する沖縄 |
| C | 奇岩と水景で紹介する沖縄 |
| D | グスク(城跡)で紹介する沖縄 |
| E | 星空(天の川銀河)で紹介する沖縄 |
| F | 何気ない日常で紹介する沖縄 |
どれも沖縄の観光写真とは異なる視点であることが興味深いです。
このアンケートに、清川氏のメッセージが隠されています。
“沖縄は、観光スポットではなく、生きる場所だ”
最後に ― 観光ではなく、“生活へのまなざし”を学ぶ
清川健司氏の作品は、沖縄を美化しません。
しかし、生活の光を劇的に演出します。
それは、逆光・シルエット・残像といった“マイナスの技法”を使うことで、観光写真の派手さとは異なる“静かな美しさ”を呼び起こします。
観光客ではなく「生活者の横に立つアマチュア写真家」。
説明ではなく「想像させるアマチュア写真家」。
その姿勢を、展示作品と資料の全てが教えてくれました。
沖縄は、あなたがまだ知らない。
そして、その“知らない沖縄”を撮ろうとする人がいる。
それが、清川健司というアマチュア写真家でした。
下記は前回ご紹介したリンクになります。

