アート・テイタム＆ベン・ウェブスターの奇跡の共演 – ジャズ名盤『アート・テイタム～ベン・ウェブスター・クァルテット＋3』徹底解説
最後にYouTubeに上がっていた収録曲を貼らせて頂いています。
ジャズの時代背景とアート・テイタムの役割
1950年代後半、ジャズはビバップからクールジャズ、スウィングと多様なスタイルが交錯し、成熟期を迎えていました。その中で、アート・テイタムは、ジャズピアノの頂点に君臨する存在として、数々のミュージシャンに影響を与えました。
特に1950年代の彼の演奏は、驚異的なテクニックと感情表現を兼ね備えたもので、ジャズ史に深く刻まれています。本作『アート・テイタム～ベン・ウェブスター・クァルテット＋3』は、テイタムが亡くなる直前に録音された、彼のラストを飾る名盤の一つであり、彼の技術と感性が凝縮された作品です。
アート・テイタムとベン・ウェブスターのプロフィール
アート・テイタム（Art Tatum）
アート・テイタム（1909年-1956年）は、20世紀最高のジャズ・ピアニストの一人と称される天才的なアーティストです。幼少期にほぼ全盲となった彼は、独自の聴覚能力を磨き、驚異的なピアノテクニックを身につけました。彼のプレイは、複雑なハーモニーとリズムを巧みに操り、他のミュージシャンたちが恐れるほどの完璧さを持っていました。
ベン・ウェブスター（Ben Webster）
ベン・ウェブスター（1909年-1973年）は、スウィング時代を代表するテナー・サックス奏者です。ウェブスターの演奏は、力強さと甘美さを兼ね備え、彼のサックスは男性的でありながらも、感情豊かに歌うような音色が特徴です。彼はデューク・エリントン楽団でも活躍し、後に自己のリーダーバンドでも成功を収めました。
アルバム『アート・テイタム～ベン・ウェブスター・クァルテット＋3』の概要
1956年9月11日にロサンゼルスで録音された本作は、ジャズの名ピアニストアート・テイタムとテナー・サックスの巨匠ベン・ウェブスターによる共演が実現した奇跡の一枚です。特にスロー・バラードが中心となったこのアルバムは、二人のベテランミュージシャンがその音楽的深みを存分に発揮し、珠玉のスタンダードナンバーを優雅に彩っています。
テイタムの流麗で繊細なピアノと、ウェブスターの力強くも情感あふれるテナーサックスのコントラストが、このアルバムの大きな魅力です。収録曲には、誰もが知るスタンダード・ナンバーが並び、心温まる演奏で多くのジャズファンを魅了してきました。
収録曲紹介
1. Gone With The Wind（風と共に去りぬ）
アルバムのオープニングを飾る「風と共に去りぬ」は、テイタムの軽やかで洗練されたピアノと、ウェブスターのしっとりとしたサックスが印象的な一曲です。この楽曲では、二人の見事なインタープレイが聴きどころで、特にテイタムの即興的なアプローチが光ります。
2. All The Things You Are（オール・ザ・シングス・ユー・アー）
「オール・ザ・シングス・ユー・アー」では、スタンダードの美しいメロディが響きます。テイタムのピアノが複雑でありながら滑らかなタッチで奏でられ、ウェブスターのサックスがそれに呼応するように感情豊かに演奏します。
3. Have You Met Miss Jones?（ジョーンズ嬢に会ったかい？）
「ジョーンズ嬢に会ったかい？」は、少し軽快なテンポで進む楽曲で、ウェブスターのサックスがリードし、テイタムのリズミカルなピアノが絡み合う、リラックスしたジャズの魅力が詰まっています。
4. My One and Only Love（マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ）
アルバムのハイライトとも言える「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」は、この曲の決定的な名演として広く知られています。ウェブスターのサックスが語りかけるようにメロディを紡ぎ、テイタムのピアノがその感情を包み込むかのように柔らかくサポートします。二人の完璧な息の合った演奏が、聴く者の心を温めます。
5. Night and Day（ナイト・アンド・デイ）
コール・ポーター作曲の「ナイト・アンド・デイ」は、明暗のコントラストが際立つナンバー。テイタムの流れるようなピアノと、ウェブスターの深みのあるサックスが、曲にドラマティックな展開を与えています。
6. My Ideal（マイ・アイデアル）
「マイ・アイデアル」では、ウェブスターのテナーサックスが持つ柔らかさとテイタムの流れるようなピアノが、感動的なバラードを創り上げています。シンプルでありながら、感情を引き出す演奏がこの曲の魅力です。
7. Where or When（ホエア・オア・ホエン）
「ホエア・オア・ホエン」は、ロジャース＆ハートのスタンダードであり、ノスタルジックなメロディが美しく演奏されます。テイタムの軽やかなタッチが、ウェブスターのサックスを支えながらも独自の存在感を放ちます。
ボーナストラック
アルバムには、「風と共に去りぬ」と「ジョーンズ嬢に会ったかい？」の別テイクが収録されており、同じ楽曲を異なる解釈で楽しむことができます。
テイタムとウェブスターの相性とアルバムの魅力
このアルバムは、アート・テイタムとベン・ウェブスターという二人の巨匠の個性が見事に融合した、まさに奇跡の一枚です。テイタムの超人的なテクニックと、ウェブスターの温かく包み込むような音色のコントラストが、聴く者に深い感動を与えます。
また、ベースのレッド・カレンダー、ドラムスのビル・ダグラスも、二人の巨匠を絶妙にサポートし、アルバム全体を通して一貫した統一感を保っています。
テイタムの死の2ヶ月前に録音されたこのアルバムは、彼のキャリアの集大成とも言える作品であり、スウィング時代の最後を飾る名盤として、ジャズ史にその名を残しています。
まとめ
『アート・テイタム～ベン・ウェブスター・クァルテット＋3』は、ジャズファンにとって必聴のアルバムです。二人の巨匠の完璧なコラボレーションによって生まれたこの作品は、聴くたびに新たな発見と感動をもたらします。
スタンダードナンバーの豊かな表現力と、ベテランの深い味わいが詰まったこのアルバムは、心を温める癒しのジャズとして、これからも多くの人々に愛され続けることでしょう。
下記URLはYouTubeにArt Tatum & Ben Webster Quartet – All the Things You Areが上がっていましたので貼らせて頂きました。
https://www.youtube.com/watch?v=MsZZkOgtMyI&list=PL3vVcwcNdjsvWhLlyOtuvrysPJkejnOQ_
これから、徐々にステレオ録音（1958年前後～）、ハードバップ時代のアルバムのご紹介になってきますのでお楽しみに・・・
