モード・ジャズの革命作『カインド・オブ・ブルー』──マイルス・デイビスが時代を変えた1枚
最後にYouTubeに上がっていた収録曲を貼らせて頂いています。
「“ジャズって難しそう…”と思っている方こそ、聴いてほしい。
マイルス・デイビスの『Kind of Blue』は、わずか5曲でジャズの歴史を変えた奇跡のアルバムです。
複雑な理論を排し、音と音の“間”で心を揺さぶる。そんな音楽が、いまだに全ジャンルの音楽ファンを魅了し続けているのです。
この記事では、なぜこの作品が60年以上経っても“初心者から玄人までが絶賛する名盤”なのかをわかりやすく解説します。」
ジャズの時代背景:『カインド・オブ・ブルー』が生まれたモダンジャズ黄金期
1950年代後半から1960年代初頭にかけて、ジャズはその表現の幅を広げ、さまざまな革新的スタイルが生まれていきました。この時代は「モダンジャズの黄金期」とも呼ばれ、ハードバップやクールジャズ、さらにはモードジャズといった新しい潮流が形成されていきます。
特に1959年は「ジャズの歴史における革命の年」と言われており、モダンジャズの中でも特に重要なアルバムが数多く発表されました。中でも、マイルス・デイビスの『カインド・オブ・ブルー』は、その中心的な存在として語り継がれています。
当時、ハードバップが主流となっていたジャズの世界において、マイルス・デイビスはモード・ジャズという新たなスタイルを提唱。複雑なコード進行に縛られることなく、モード(音階)を基盤にした自由な即興演奏を可能にしました。『カインド・オブ・ブルー』は、このモード・ジャズの代表的なアルバムとして、ジャズの未来を切り開いた作品です。
マイルス・デイビス:ジャズの帝王、その革新と功績
マイルス・デイビス(Miles Davis, 1926–1991)は、アメリカ・イリノイ州出身のトランペット奏者で、ジャズの歴史を語るうえで欠かせない存在です。そのキャリアは50年近くにわたり、常に音楽界の最前線に立ち続けました。
デイビスは、クールジャズ、ハードバップ、モードジャズ、さらにはフュージョンに至るまで、数多くのスタイルを創出・進化させた革新者です。彼は常に新しい音楽を追求し続け、多くのミュージシャンやリスナーに影響を与えてきました。
『カインド・オブ・ブルー』が録音された時期、デイビスはそのキャリアの絶頂期にあり、彼を中心とするバンドには後のジャズ界を代表する名手たちが集結していました。このアルバムは、彼の芸術性と先見性を象徴する作品であり、20世紀を代表する音楽の一つとして広く認識されています。
なぜ今『カインド・オブ・ブルー』を聴くべきなのか?
「ジャズは敷居が高い」「理屈っぽい音楽」という印象を持っている方は少なくないでしょう。
しかし、マイルス・デイビスの『カインド・オブ・ブルー』は、そんな偏見を見事に覆してくれます。
このアルバムは、たった5曲で“ジャズの美しさ”のすべてを感じさせる奇跡のような作品です。
技巧をひけらかすのではなく、あくまで“余白”と“空気”を大切にした演奏。複雑さではなく、シンプルな音の流れで心に届く──そんな音楽が、今だからこそ求められているのではないでしょうか。
さらにこの作品は、どんなジャンルのリスナーにも自然に響く普遍性を持っています。クラシックファンはビル・エヴァンスの繊細なピアノに、ロックファンはコルトレーンの熱いサックスに、それぞれ心を奪われるでしょう。
そして何より、デジタル音楽全盛の今だからこそ、『Kind of Blue』のアナログ録音が持つ空気感や空間性は、新鮮な感動をもたらしてくれます。
深夜、ひとりで部屋を暗くして、ヘッドホンで再生してみてください。66年前の録音とは思えない、リアルな“音の温度”を感じるはずです。
1959年というジャズの転換点
『カインド・オブ・ブルー』が発表された1959年は、ジャズ史における大変革の年でした。実はこの年、ジャズの方向性を大きく変えた名盤が集中してリリースされたのです。
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ジョン・コルトレーン『Giant Steps』
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オーネット・コールマン『The Shape of Jazz to Come』
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デイヴ・ブルーベック『Time Out』
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チャールズ・ミンガス『Mingus Ah Um』
そして、その中心にあったのが、マイルス・デイビス『Kind of Blue』でした。
この時代、ジャズは「ダンス音楽」から「聴く芸術」へと移行し始めていました。戦後の混乱期を抜け、個人表現としての音楽が重視される中、マイルスはコードに縛られない“自由な即興”を志向するようになります。
従来のジャズ(ハードバップなど)は、複雑なコード進行を使いこなすことで美しさや深みを表現していました。しかしマイルスは、あえてそれを捨てて、「たった1つの音階(モード)で演奏する」という大胆な手法を選びました。
1959年という年は、マイルスのような革新者がその試みに成功し、ジャズが大衆音楽から芸術音楽へと昇華していった“分岐点”だったのです。
モード・ジャズとは何か?難しそうで実は“シンプル”
『Kind of Blue』が革命的といわれる理由のひとつが、「モード・ジャズ」という演奏スタイルを広く知らしめたことです。
コード進行を手放し、モード(音階)に委ねる自由
従来のジャズでは、たとえばA→D7→G7→Cなどと、次々にコードが変わる進行に合わせて即興演奏をしていました。
しかしモード・ジャズでは、たった1つの音階(例:Dドリアン)を長く使い、その中で自由に旋律を紡いでいきます。
つまり、“コードからの解放”こそがモード・ジャズの核心。
それにより、演奏者はより感情や空間を意識したアプローチができるようになったのです。
難解どころか、むしろ心に染みる“静けさ”
「コードが少ないと退屈なのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、実はその逆。
モード・ジャズでは、音と音の“間”や“余白”が生きてくるため、聴く側の想像力を自然に引き出してくれます。
たとえば『Kind of Blue』の1曲目「So What」は、基本的に2つのモードしか使われていません。それでも、静かな緊張感、スリリングな会話、静寂の中のグルーヴが聴き手を引き込むのです。
「Blue in Green」のようなバラードでは、まるでピアノの一音一音が、夜空に落ちていくかのような透明感。これがモード・ジャズの真骨頂です。
“わからなくてもいい”音楽
マイルス自身が語ったように、「説明なんてしなくていい。感じればいい」。
モード・ジャズは、理屈で聴く音楽ではなく、“体と心で浴びる”音楽なのです。
全5曲レビュー:曲ごとに変わる風景と感情
『カインド・オブ・ブルー(Kind of Blue)』は、1959年に録音され、同年にリリースされました。このアルバムは、ジャズの枠を超えて多くの音楽ファンに愛され続け、累計セールスは1000万枚を超える驚異的な記録を持っています。
収録曲リスト
ソー・ホワット(So What)
アルバムの冒頭を飾る名曲で、印象的なベースラインから始まります。モード・ジャズの象徴ともいえるこの曲は、マイルスのトランペットとジョン・コルトレーンのサックスの掛け合いが絶妙です。
フレディ・フリーローダー(Freddie Freeloader)
軽快でリラックスした雰囲気を持つブルースナンバー。ピアノはウィントン・ケリーが演奏しており、そのシンプルで美しいアプローチが光ります。
ブルー・イン・グリーン(Blue in Green)
アルバム随一のバラードで、ビル・エヴァンスのピアノが主役となる感動的な楽曲です。心に染み渡るメロディが多くのリスナーを魅了しています。
オール・ブルース(All Blues)
ワルツのリズムを取り入れた曲で、ブルースの形式を活かしつつも非常に洗練された構造を持っています。各ミュージシャンのソロが見事に調和しています。
フラメンコ・スケッチ(Flamenco Sketches)
異なる5つのモードを使った即興演奏が展開される楽曲。マイルスのトランペットが深い感情を表現し、リスナーを瞑想的な世界へと誘います。
『カインド・オブ・ブルー』の革新性と音楽的意義
このアルバムの最大の特徴は、モード・ジャズのアプローチが徹底されている点です。それまでのジャズは複雑なコード進行を基盤にしていましたが、『カインド・オブ・ブルー』では、シンプルなモード(音階)を用いることで、演奏者がより自由に即興を行えるようになりました。
また、この作品は録音セッションの即興性が高く、リハーサルはほとんど行われず、ミュージシャンたちはマイルスがその場で提示するモードに基づいて演奏を行いました。その結果、生まれた音楽は非常に自然でありながら、計算された美しさを持っています。
マイルスを支えた“奇跡のメンバーたち”
ジョン・コルトレーン(テナーサックス):後にジャズ史を代表する存在となる巨人。
キャノンボール・アダレイ(アルトサックス):ソウルフルな音色が特徴。
ビル・エヴァンス(ピアノ):繊細で詩的な演奏が光るピアニスト。
ウィントン・ケリー(ピアノ):1曲のみの参加ながら、軽快なタッチが印象的。
ポール・チェンバース(ベース):アルバム全体の土台を支えた名手。
ジミー・コブ(ドラム):シンプルかつ的確なリズムで楽曲を彩るドラマー。
『カインド・オブ・ブルー』が世界中に与えた衝撃と影響
『カインド・オブ・ブルー』は、ジャズ界のみならず、ポップスやロックを含む多くの音楽ジャンルに影響を与えました。このアルバムを聴いてジャズに目覚めたというミュージシャンも多く、今なおその魅力は色褪せることがありません。
また、音楽だけでなく、「自由」というテーマを通じて、時代の価値観や文化的な変革にも寄与しました。モード・ジャズはその後のフリージャズやフュージョンの基盤となり、ジャズの未来を切り開いたのです。
まとめ:『カインド・オブ・ブルー』はあなたの音楽の価値観を変えるかもしれない
マイルス・デイビスの『カインド・オブ・ブルー』は、ジャズの歴史において不朽の名盤であり、その美しさと革新性は聴く者に深い感動を与えます。シンプルながらも奥深いモード・ジャズの魅力を、このアルバムを通じて存分に味わってください。
あなたの音楽ライブラリに永遠に残る1枚になることでしょう。
下記URLはYouTubeにM I L E S D A V I S – Kind Of Blue – Full Albumが上がっていましたので貼らせて頂きました。
https://www.youtube.com/watch?v=vDqULFUg6CY&t=2486s
これから、徐々にステレオ録音(1958年前後~)、ハードバップ時代のアルバムのご紹介になってきますのでお楽しみに・・・
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